非運動症状
これらの症状は運動症状が出る以前にあらわれることもあり、患者さんの生活の質に大きく影響します。以下の症状は、パーキンソン病と関係の深い症状ですので、気になることが あれば専門医に相談しましょう。
睡眠障害
パーキンソン病における睡眠障害は、40〜90% の頻度であることが報告されていて1)、不眠症 、日中の眠気のほかに、睡眠時無呼吸症候群やレム睡眠行動異常症、レストレスレッグス 症候群があります。 原因としては、睡眠調節中枢の障害だけでなく、夜間の運動症状、痛み、不安や頻尿などの非運動症状、ドパミン作動薬等の治療薬の影響などがあげられます。 パーキンソン病の睡眠障害を把握する質問票には、PD Sleep Scale(PDSS)があります。
不眠
なかなか寝付けない(入眠困難)、途中で起きてしまう(中途覚醒)、朝早く起きてしまう(早朝覚醒)等があります。
日中の眠気
日中の眠気を伴うことが多く、一部の抗パーキンソン病薬の使用により突発性睡眠が生じる可能性もあります。転倒や外傷のリスクもありますが、自動車の運転や高所作業などのリスクを伴うことを避けることが大切です。
睡眠時無呼吸症候群
パーキンソニズムによる上気道抵抗の増大や中枢性の呼吸障害によって起こる可能性があります。日中の眠気や運動症状の悪化につながることがあります。
レム睡眠行動異常
筋抑制低下の障害で、深い眠りに入る前(レム睡眠)に夢の内容に合わせて話したり、手足を動かしたりしてしまう症状です。大声をあげる、周囲のものや人を殴る、蹴る、ベッドから飛び上がるといった行動もみられます。
レストレスレッグス症候群
夕方や夜間に下肢を動かしたくなる病気で、運動により症状が改善することが特徴です。そのために、夜間に不眠症を起こし、日中の眠気を引き起こすこともあります。
認知・精神障害
認知機能(判断力や記憶力)の低下
パーキンソン病に伴う認知機能の低下は、診断5年後で30%、10年で45%、20年後では80%に認められると報告されています2)。
パーキンソン病に伴う認知機能の低下は、レビー小体型認知症と同じ脳病変で、特徴的な症状としては、手際が悪くなる(遂行機能障害)、集中力がなくなる(注意機能障害)、図形の模写や車庫入れが下手になる(視空間認知障害)、もの忘れ(記憶障害)などがあります。アルツハイマー型認知症のような記憶障害が目立ないために気づきに
くいことがあります。
気分障害(うつ、不安)、幻覚・妄想
パーキンソン病の患者さんの約40%にうつが認められるとされます3)。パーキンソン病に伴ううつ症状では、憂鬱な気分はあまり目立ちません。元気が出ない、意欲がわかない、楽しみが感じられないなどといった様子や、疲労感や倦怠感など体に関する不調の訴えが増えるのが特徴的です。うつ症状は生活の質に大きく影響しますから、早期に発見し、適切な診断を受けることが重要です。
行動異常(買いあさり、むちゃ食い、病的賭博など)
男性の場合は病的賭博や性欲亢進、女性の場合は買いあさりなどの症状となってあらわれます。
自律神経症状
便秘
多くのパーキンソン病患者さんが頑固な便秘に悩んでいます。便秘は薬の吸収を低下させるだけではなく、 腹部の疼痛なども引き起こします。
便秘について詳しく知りたい方は、 イーベンNaviもご覧ください。
排尿障害
すぐトイレに行きたくなる(頻尿)、トイレをがまんできない(尿意切迫)、出したいのになかなかでない(尿閉)ということがしばしばあります。頻尿は特に夜間に目立ち、睡眠不足になることもあります。
トイレについてはくらしの工夫の項をご覧ください。
起立性低血圧(立ちくらみ、ふらつき、失神)
パーキンソン病になると血圧が下がりやすくなり、めまいが起こることがあります。めまいは立ち上がったときに起こります。
発汗障害(大量に汗をかく)
発汗は過多と低下の両方が起こります。
感覚障害、その他
痛み
痛み刺激は、末梢神経を通って中枢神経へ伝わります。脳内のドパミンが減少すると、運動機能障害、痛みの抑制経路の障害、認知機能や気分の障害(高次機能)などさまざまな要因が重なることで痛みが生じやすくなります。
痛みの頻度は、その調査方法や定義によって変化しますが、約30~80%のパーキンソン病の患者さんで認められると報告されています4)。
痛みは睡眠障害やうつ、不安、パニックの原因として関わることも多く、リハビリテーションも困難になってしまいます。
嗅覚障害
便秘とともに、パーキンソン病の前駆症状といわれます。においがわかりづらい、食べ物の味が変わった、といった症状があらわれます。
体重減少や疲労
その他の症状では、患者さんの半数以上に体重減少や過度な疲労がみられます。
(参考)パーキンソン病に伴う痛みの種類
パーキンソン病に伴う痛みは、さまざまな種類に分けられます。痛みの原因や状態によって、 適切な対応法が異なりますので、ご自身の痛みについて知り、主治医に伝えることが重要です。
筋・骨格関連疼痛
筋強剛が原因となり、首、上腕などに出現しますが、腰痛としても起こります。通常は、深夜か早朝に起こり、持続時間は数秒から数時間にわたって 続くこともあります。運動症状の変動に伴って増悪する場合も多く、側弯症(そくわんしょう)の原因にもなり、長期になると痛みに伴って脊椎が変形することもあります。最も頻度が高い種類 の痛みです。
末梢神経性・根性疼痛
変形性脊椎症、圧迫性末梢神経障害によるものが多く、坐骨神経痛もその一つです。通常は運動症状に関係なく常時認められますが、ジスキネジアによって増悪することがあります。
ジストニア関連痛
ドパミン欠乏に伴って早朝に、またはウェアリング・オフに伴って日中・夜間に起こるのが一般的です。オフ時の痛みは、下腿や足に起こります。レボドパによって生じる痛みは、首、体幹 、顔面に出現することが多いです。
中枢性疼痛
灼熱感、刺すような耐え難い痛みです。手足だけでなく、口腔、咽頭、腹部、肛門、陰部の痛みとして出現することがあります。オフ時に悪化する傾向があります。
アカシジア関連痛
アカシジアは「じっとしていられない」感覚で、灼熱感・ちくちく感を伴うのが一般的で、オフ時に生じるのが特徴です。静止を維持できないため、日常生活にも支障をきたします。